有酸素運動で筋肉は落ちる?筋トレとの両立・順番を論文で検証

有酸素運動で筋肉は落ちる?筋トレとの両立を検証 運動・健康

筋トレと有酸素運動を並行しても、筋肉のサイズも最大筋力も、ほとんど落ちません。43の研究をまとめた2022年のメタ分析では、筋トレだけの人との差はほぼゼロでした(統計的にも有意差なし)。「有酸素は筋肉を食う」という通説は、条件を絞れば起きますが、ふつうの範囲ではかなり誇張されています。

唯一はっきり下がるのは、瞬発的なパワーだけ。それも筋トレと有酸素を同じ時間にやったときに限られます。私自身、筋トレに軽い有酸素——といっても健康のためのウォーキングが中心で、筋肉が落ちるような強度ではありません——を4〜5年あわせて続けていますが、筋肉が落ちた体感はまったくありません。どんな条件で干渉が起きるのか、順番はどうすべきか、そもそも有酸素と無酸素は何が違うのか——分けて検証します。(数値の出典は記事末尾にまとめました)

「有酸素で筋肉が落ちる」と言われる理由

ボディメイクの世界では、有酸素運動は長らく嫌われ者でした。「せっかく付けた筋肉が有酸素で分解される」「減量はしたいけど走ると筋肉が減る」。こうした不安はよく聞きます。

理屈の出どころはあります。筋トレは筋肉を作る方向のスイッチ(mTORなど)を、有酸素は持久力に適応する別のスイッチ(AMPKなど)を入れます。運動直後の細胞レベルでは、有酸素のスイッチが筋トレのスイッチを一時的に邪魔することが確かに観察されます。これが「干渉効果(interference effect)」と呼ばれるものです。

ただ、細胞レベルで一瞬起きることと、数週間〜数か月で実際に筋肉が増えるかどうかは、別の話です。人を対象に長期間追った研究を集めると、絵はかなり変わります。

並行しても、筋肉も筋力もほとんど落ちない

結論から見ます。筋トレと有酸素を並行しても、筋肉の大きさと最大筋力は、筋トレだけの場合とほぼ同じです。

43件の研究を統合した2022年のメタ分析(Schumannら)によると、並行トレーニングと筋トレ単独で、筋肥大の差は標準化平均差で−0.01(統計的に有意でない)、最大筋力の差は−0.06(これも有意でない)でした。要するに、サイズも最大筋力も、有酸素を足したせいで落ちるとは言えません。

唯一はっきり下がったのは、爆発的なパワー(瞬発力)です。こちらは−0.28と有意な低下でした。ただしこれも、筋トレと有酸素を同じセッションで続けて行ったときに目立ち、3時間以上あければ和らぎます。

並行トレと筋トレ単独の差(筋肥大・最大筋力・パワー)
並行しても筋肥大・最大筋力はほぼ変わらず、下がるのはパワーだけ(Schumann et al. 2022)

ここは整理が大事です。多くの人が「筋肉が落ちる」と言うとき、想像しているのは筋肉のサイズや力です。そこは並行しても守られます。影響が出るのはジャンプやスプリントのような瞬発力で、しかも同時にやったときだけ。陸上の短距離やパワー競技の選手でなければ、神経質になる必要はほとんどありません。

別のレビュー(Murach & Bagley 2016)はさらに踏み込んで、「並行運動が筋成長を妨げるという証拠は、かつて思われたほど強くない」「条件を整えれば、むしろ筋肥大を後押しすることもある」と述べています。有酸素で血流や回復が良くなる面もあるからです。

干渉が出るのは、どんな時か

とはいえ「有酸素は何をどれだけやっても無害」ではありません。干渉が出る条件はあります。

古い方の代表的メタ分析(Wilsonら 2012、21研究)では、有酸素の量が増えるほど筋肉系の伸びが削られる関係が見えました。有酸素の頻度・時間と、筋肥大や筋力の伸びは負の相関(時間との相関は最大−0.75)。つまりマラソン級に長時間・高頻度で走り込めば、筋肥大も筋力も実際に落ちます。

並行トレと筋トレ単独・有酸素単独の筋肥大の効果量
古いメタ分析では並行で筋肥大の効果量がやや低下。新しいメタでは差は縮小(Wilson 2012)

このメタ分析では、有酸素の種目でも差が出ました。ランニングを併用すると筋肥大も筋力も有意に下がる一方、自転車(サイクリング)では低下が見られませんでした。ランニングは着地のたびに脚へ伸張性の負荷がかかり、筋ダメージが大きいぶん回復を奪う、という説明です。

ただし、ここは正直に書きます。より新しい2022年のメタ分析(Schumann)では、有酸素の種目による差は確認されませんでした。「ランニングは筋肉に悪い」は、古い研究では出たものの、研究が増えた今では支持が弱まっています。実用的には、種目そのものより「量をやりすぎないこと」のほうが効きます。週に何時間も走り込むのでなければ、ランでもバイクでも大きな差は出にくい、というのが今のところの落としどころです。

筋トレと有酸素、順番はどっちが先か

同じ日に両方やるなら、順番は気にする価値があります。ただし「何のために」かで答えが変わります。

同一セッションの順番を調べたメタ分析(Eddensら 2018)によると、筋トレを先・有酸素を後にすると、下半身の動的な筋力(スクワットのように動かして出す力)が約6.9%高く伸びました。先に有酸素で脚を疲れさせると、その後の筋トレの質が落ちるからです。

一方で、筋肥大そのものや、静的な筋力、有酸素能力の伸びには、順番による差は出ませんでした。だから「筋肉を大きくしたいなら筋トレを先に」と断言するのは行き過ぎです。正確には、瞬発力や高重量の筋力を大事にしたいなら、筋トレを先に。サイズが目的なら、順番より総量のほうが効きます。

そして一番効くのは、可能なら時間を分けることです。筋トレと有酸素を別の時間帯か別の日にすれば、パワーの一時的な低下もほぼ消えます。

有酸素運動と無酸素運動は何が違うのか

そもそも有酸素と無酸素は、何が違うのか。整理しておきます(運動生理学の標準的な定義です)。

違いは「エネルギーの作り方」です。有酸素運動は、酸素を使ってじっくりエネルギー(ATP)を作るので、低〜中強度を長く続けられます。ウォーキング、ジョギング、サイクリングが代表です。無酸素運動は、酸素の供給が間に合わない高強度・短時間の運動で、糖を一気に分解してエネルギーを作ります(このとき乳酸ができます)。全力ダッシュや高重量の筋トレがこれです。

主に使う筋線維も違います。有酸素では持久力に強い遅筋(赤い筋肉)が中心、無酸素では瞬発力を出す速筋(白い筋肉)が中心になります。得られる適応も、有酸素は心肺やスタミナ、無酸素は筋力や筋肥大、と分かれます。

ただし「有酸素は遅筋だけ、無酸素は速筋だけ」と切り分けるのは単純化しすぎです。どんな運動でも体は全部のエネルギー系・全部の筋線維を連続的に使っていて、強度によって「主役」が入れ替わるだけ、というのが正確なところです。

それでも有酸素には大きな価値がある

筋肉の話に偏りましたが、有酸素を避けるのはもったいない。健康面の見返りが大きいからです。

34のコホート研究を統合した2022年のメタ分析(Hanら)では、心肺の体力(持久力の指標)が1メッツ高いごとに、あらゆる原因による死亡リスクが約12%、心血管疾患による死亡が約13%、がんによる死亡が約7%下がっていました。持久力を上げることは、寿命と健康に直結します。

心肺フィットネス1メッツ上昇あたりの死亡リスク低下
持久力が高いほど死亡リスクは下がる(Han et al. 2022)

そして筋肉とは、両取りできます。設計はシンプルです。

  • 有酸素の量を「やりすぎ」にしない(週に何時間も走り込まない)
  • 同じ日にやるなら、筋トレを先に
  • 余裕があれば、筋トレと有酸素を別の時間か別の日に分ける

これだけで、筋肉を守りながら心肺も鍛えられます。私自身、筋トレを軸に軽い有酸素を足す形で4〜5年続けていますが、体はゆっくり筋肉質になりました。「有酸素か筋トレか」の二択で考える必要はありません。

減量中に筋肉が落ちるのは、有酸素のせいではない

「減量で有酸素をやったら筋肉が減った」。この経験は本物ですが、犯人は有酸素ではありません。主因は別にあります。

減量中の筋肉減を調べたメタ分析(Murphy & Koehler 2022)によると、筋肉(除脂肪量)の増加を妨げる最大の要因は、エネルギー不足の大きさでした。1日あたりおよそ500kcalを超える不足になると、筋トレをしていても筋肉が増えにくくなります。逆に、筋力の伸びはエネルギー不足下でも保たれていました。

そして、筋トレ(レジスタンス運動)とタンパク質が、筋肉を守ります。カロリー制限中の高齢肥満者の研究を集めたメタ分析(Sardeliら 2018)では、筋トレを足すことで、カロリー制限による筋肉減少の93.5%を防げました。タンパク質も重要で、減量中の筋トレ実践者には、除脂肪量1kgあたり1日2.3〜3.1gという高めの摂取が推奨されています(Helmsら 2014。制限が厳しいほど上限へ)。

つまり減量中に筋肉を守る鍵は、「有酸素をやめる」ことではなく、エネルギーを削りすぎない・タンパク質を多めに摂る・筋トレを続けるの3つです。有酸素は、消費を足して減量を助ける道具として、むしろ使えます。

→ あわせて読みたい:HIITの消費カロリーは本当に多い?12種の運動とメッツで比較

まとめ:有酸素で筋肉は「ほぼ」落ちない

整理します。筋トレと有酸素を並行しても、筋肉のサイズと最大筋力はほとんど落ちません(メタ分析で有意差なし)。下がるのは瞬発的なパワーだけで、それも同じセッションでやったときに限られます。「有酸素は筋肉を食う」は、マラソン級にやりすぎた場合の話を、ふつうのトレーニーにまで広げた誇張です。

干渉を避けたいなら、有酸素の量を抑え、同じ日なら筋トレを先に、できれば時間を分ける。これで筋肉を守りながら、心肺という大きな健康リターンを取りにいけます。減量中に筋肉が減るのも、有酸素ではなくエネルギー不足とタンパク質不足が主因です。

有酸素か筋トレか、ではありません。役割が違う二つを、設計して両取りする。データが勧めているのは、こちらです。

よくある質問

有酸素運動をすると筋肉は落ちますか?

筋肉のサイズと最大筋力は、筋トレと並行してもほとんど落ちません(43研究のメタ分析で有意差なし)。落ちるのは瞬発的なパワーだけで、それも筋トレと有酸素を同じ時間にやったときに目立ちます。時間を分ければ、その影響もほぼ消えます。

筋トレと有酸素、どっちを先にやるべき?

瞬発力や高重量の筋力を大事にしたいなら、筋トレを先にしてください(同じ日にやる場合、下半身の動的筋力の伸びが約7%有利になります)。筋肥大が目的なら順番より総量が効くので、神経質になる必要はありません。可能なら別の時間・別の日に分けるのが一番です。

有酸素運動と無酸素運動の違いは?

エネルギーの作り方が違います。有酸素は酸素を使って低〜中強度を長く続ける運動(ジョギング等)、無酸素は酸素が間に合わない高強度・短時間の運動(全力ダッシュや高重量の筋トレ)です。有酸素は心肺・持久力、無酸素は筋力・筋肥大に効きます。

毎日有酸素をやっても筋肉は大丈夫?

軽い有酸素を適量なら問題ありません。筋肉を削るのは「週に何時間も走り込む」ような過度な量です。一般的な範囲(1回20〜40分程度)であれば、筋トレと両立できます。むしろ心肺や回復にプラスです。

減量中の有酸素は筋肉を減らしますか?

減量中に筋肉が減る主因は、有酸素ではなく「エネルギーの削りすぎ(1日500kcal超の不足)」「タンパク質不足」「筋トレをしないこと」です。筋トレを続け、タンパク質を多めに摂れば、有酸素を入れても筋肉は守れます。


参考にした主な出典

  • Schumann M. et al. (2022) 並行トレーニングと筋サイズ・機能のメタ分析, Sports Medicine 52(3):601-612(43研究。筋肥大・最大筋力に有意差なし、パワーのみ減弱)
  • Wilson J.M. et al. (2012) 並行トレーニングの干渉効果のメタ分析, Journal of Strength and Conditioning Research 26(8):2293-2307(21研究。ランニング併用で筋肥大・筋力が低下、量・時間と負相関)
  • Murach K.A., Bagley J.R. (2016) 並行トレーニングと筋肥大のレビュー, Sports Medicine 46(8):1029-1039(干渉効果は従来思われたほど強くない)
  • Eddens L., van Someren K., Howatson G. (2018) セッション内の運動順序のメタ分析, Sports Medicine 48(1):177-188(筋トレ→有酸素で下肢動的筋力が約6.9%有利。肥大は順番差なし)
  • Han M. et al. (2022) 心肺フィットネスと死亡のメタ分析, British Journal of Sports Medicine 56(13):733-739(1メッツ上昇で全死亡−12%・心血管死−13%・がん死−7%)
  • Murphy C., Koehler K. (2022) エネルギー不足と筋トレの効果, Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 32(1):125-137(1日500kcal超の不足で除脂肪量の増加が阻害)
  • Sardeli A.V. et al. (2018) レジスタンス運動とカロリー制限のメタ分析, Nutrients 10(4):423(筋トレで筋肉減少の93.5%を防止。対象は高齢肥満者)
  • Helms E.R. et al. (2014) 減量中の筋トレ実践者のタンパク質, International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism 24(2):127-138(除脂肪量1kgあたり2.3〜3.1g/日)
  • 有酸素・無酸素の定義=運動生理学の標準的定義(OpenStax/LibreTexts Anatomy & Physiology 等)